大規模修繕の減価償却とは?計算のポイントは耐用年数
マンション大規模修繕工事の実施にあたっては、高額な工事費が必要になります。
その大規模修繕の費用を会計処理する際「すべて経費で一括処理できないのか?」と考えたことがあるのではないでしょうか?
特に賃貸マンションを経営している方は、少しでも利益を得るためには税金対策が求められます。
基本的な大規模修繕のような修繕工事を行った場合、会計上は「資本的支出」と「修繕費」のいずれかで計上します。
そして、多くの大規模修繕は「資本的支出」として計上しますが、資本的支出で計上したときは、償却期間に応じて「減価償却」が可能になります。
そこでこの記事では、マンション大規模修繕の工事費用の会計処理について、減価償却の計算方法などについて説明します。
このページの目次
1. マンション大規模修繕費用の会計処理について
マンション大規模修繕は、月日の経過によって発生する劣化や損傷を修繕して、建物の耐久性・機能性・安全性の向上を図るとともに、時代のニーズに応じてバリューアップを行い、生活水準の向上を図る目的で行われる、マンション最大のイベントです。
主に共用部分が工事範囲となり、一般的に「一戸あたり75万円~100万円」という高額な工事費が必要になります。
そこで、工事費用の会計処理を行うときどのようなに処理すればいいのか?悩んでいる方もいるでしょう。
ここからは、マンション大規模修繕に関わる工事費用の会計処理について説明します。
1-1. 大規模修繕に関わる費用の会計処理は「資本的支出」と「修繕費」に分かれる
マンション大規模修繕などの修繕工事を実施したとき、会計上は「資本的支出」もしくは「修繕費」のいずれかで計上しますが、違いを正確に理解していない方もいるのではないでしょうか?
そこで会計処理の基本として、まずは「資本的支出」と「修繕費」の違いを簡単に説明します。
1-1-1. 「資本的支出」とは?
資本的支出とは、建物などの固定資産の使用可能年数(耐用年数)を延長したり、資産価値を増加させたりするために支出した費用を指します。明らかに資本的支出として計上される主な工事内容は、以下のようになります。
資本的支出としてみなされる工事内容
・耐震補強
・屋上などの防水加工
・非常階段など建物に後から設置するような工事
・10万円以上の設備(照明設備・冷暖房設備など)の新設
また、資本的支出で計上した場合、次の項で詳しく説明しますが、建物の償却期間に応じて減価償却を行うことになります。
1-1-2. 「修繕費」とは?
修繕費とは、建物に損傷が発生したときの原状回復、または維持管理を図るために支出した費用、もしくは、支出する費用が少額な工事も修繕費になります。修繕費はあくまで「原状回復」や「維持管理」を行うための少額な支出になり、明らかに修繕費として計上される工事内容は以下のようになります。
修繕費としてみなされる工事内容
・外壁などの塗装塗替え
・屋上など部分的な防水改修
・電球などの交換
・建具や備品などの設備の補修
・3年に1度程度の修繕工事
1-1-3. 資本的支出と修繕費を明確に分けることができないときの基準
ここまで簡単に資本的支出と修繕費の違いを説明しましたが、漠然としているので区分が判断できないことがあります。
そのようなケーでは、以下の基準に則って区分するようになります。
資本的支出か修繕費か判断できないときの基準
・20万円未満の修繕、または3年に1度程度の修繕
・60万円未満の修繕
・修繕する資産の前期末所得価格の10%未満の費用
以上のように、工事費用を会計処理する際、資本的支出もしくは修繕費のいずれかで処理しますが、一般的に12年周期で行われる大規模修繕は「資本的支出」で処理する必要があります。しかし、大規模修繕は建物の原状回復を目的に行われる工事なので「修繕費」に該当するのではないかと感じる方も少なくないでしょう。
そこで、大規模修繕工事が資本的支出になる理由を説明すると、工事費用が100万円以上かかるうえに、固定資産の耐用年数を延長したり、資産価値を増加させたりする工事を行うからです。
一般的に行われているマンション大規模修繕の工事範囲は、以下の通りになりますが、主に耐用年数を延ばして資産価値を高める工事が行われます。
マンション大規模修繕の一般的な工事範囲
・外壁:下地コンクリート補修工事・タイル補修および貼り替え工事・塗装工事など
・屋上:防水工事
・共用部廊下・階段・ベランダ・バルコニー:床面防水工事および壁面・軒天塗装工事
・鉄部:錆(さび)部や塗装剥離部の塗装工事
・設備関係:電気・給排水・消防などの設備関係の補修および更新工事
・外構:外構施設(舗装、フェンスなど)の補修工事
さらに、工事費用に関しても「一戸当たり75万円~100万円」が工事費用の目安となり、総戸数が30戸程度の小規模マンションでも2千万円以上の工事費が必要になります。
そのため、12年周期で行われる大規模修繕工事は、税法上で「修繕費」とは認められず「資本的支出」という扱いになるのです。「修繕費」に該当する工事は、あくまで金額が20万円未満で、おおむね3年以内に定期的に行われる修繕工事になります。
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2. マンション大規模修繕は「減価償却」できるのか?
マンション大規模修繕工事は、100万円以上の費用が必要になるので、一般的に資本的支出で計上します。
そこで、賃貸マンションのオーナーの中には「減価償却できるのか?」と疑問がある方もいると思いますが、先程も説明した通り、資本的支出で計上した場合、建物の償却期間に応じて減価償却が可能になります。
この項では、マンション大規模修繕の工事費用に関わる「減価償却」についてお話ししていきます。
2-1. 資本的支出の「減価償却」とは?
「減価償却」を簡単に説明すると、月日の経過に伴う資産価値の減少を、経費として計上する会計上の仕組みになります。
大規模修繕など、減価償却の対象となる支出に対して、支出した段階で全て経費計上するのではなく、マンションの耐用年数に応じて、分割しながら計上する形になります。
減価償却を行った減価償却費は、各年度の経費として売上から差し引くことができ、利益額を抑えることが可能になるため、結果として節税効果が期待できるのです。
2-2. 減価償却費の2種類の計算方法
では「減価償却費はどうやって計算するのか?」について、減価償却費は一般的に以下の2種類の計算方法のいずれかで算出されます。
減価償却費の計算方法
・定額法:毎年同額を減価償却費として計上する計算方法
・定率法:減価償却費が一定の割合で減っていく計算方法
減価償却費の算出は、上記の2種類の計算方法が使われていますが、マンションなどの建物の減価償却費は、税制上「定額法」で計算するように定められています。
2-3. 減価償却費の計算では減価償却期間算定の基準になる「耐用年数」がポイント
マンションを含めた建物で減価償却費を計算するときは、基本的に「定額法」で計算します。
その計算式は以下のようになりますが、計算でポイントになるのが、減価償却期間算定の基準となる「耐用年数」です。
マンションなど住宅用建物の構造は、一般的に「鉄筋コンクリート造(RC造)」もしくは「鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)」になりますが、その耐用年数は「47年」と定められています。
定額法の計算式
・建物の取得価額(大規模修繕に伴う工事費用) × 定額法償却率
定額法償却率に関しては、国税庁から「減価償却資産の償却率表」が公開されており、RC造マンション(耐用年数47年)の定額法償却率は「0.022」となっています。
基本はこの計算式で減価償却費を算出しますが、大規模修繕などの工事費用を資本的支出として資産計上したときの耐用年数は原則、マンションの資産本体の耐用年数に応じて償却を行う必要があります。
要は、マンションが竣工してから12年目に大規模修繕を実施したときでも「マンションの耐用年数47年 - 大規模修繕12年目 = 耐用年数35年」とはならず、あくまでマンションの耐用年数47年が基本になるということです。
例えば12年目に3千万円の工事費をかけて大規模修繕を行った場合、上記の定額法の計算式で計算すると「工事費3千万円× マンション本体の耐用年数47年の定額法償却率「0.022」 = 減価償却費 66万円」となるのです。
このように、基本はマンションの耐用年数での償却になるため、工事費3千万円の大規模修繕工事での減価償却費は66万円になり、この66万円を経費として売上から差し引くことができます。
2-4. ちょっとした修繕工事の費用は「修繕費」で経費計上する
ここまで大規模修繕の工事費用に関わる減価償却について説明しましたが、ちょっとした修繕工事の費用は「修繕費」として一括経費計上することをおすすめします。
資本的支出で処理したときは減価償却できますが、上記でご紹介した通り、3千万円の工事費用に対してたったの66万円しか経費計上できないので、それほどの節効果は期待できません。
そのため、明らかに修繕費としてみなされる支出なら問題ありませんが、資本的支出か修繕費か判断できない修繕工事を行うときは、できるだけ修繕費扱いになるように工事費を抑えるなどの工夫をしていきましょう。
3. まとめ
今回はマンション大規模修繕に伴う「減価償却」についてお話ししましたが、何となくイメージできたでしょうか?
一般的に12年周期で実施する大規模修繕は、税法上で「修繕費」とは認められず「資本的支出」という扱いになります。
そして資本的支出で計上した場合、建物の償却期間に応じて減価償却が可能になるため、税金対策にも効果があります。
ただし大規模修繕などの支出に関しては、基本として、マンション本体の耐用年数(47年)の定額制償却率で計算しなければならないので、それほど大きな税金対策は期待できません。
そのため最後に説明した通り、定期的な修繕工事を行うときは修繕費扱いになるように、工夫して計画を進めましょう。