大規模修繕の3つの発注方式の特徴&メリット・デメリット
マンションなどの建物は経年劣化が避けられません。
そのため、ほとんどの分譲マンションでは長期修繕計画が立案され、一般的に12周期で大規模修繕工事が行われます。
その大規模修繕工事はマンション内で修繕委員会を立ち上げて計画を進めていきますが、まずは「発注方式」を決めなければなりません。発注方式とはそのまま大規模修繕工事を依頼するときの方式であり、現在大きく3タイプの発注方式があります。
しかし、初めて大規模修繕工事を計画するマンションでは、どんな発注方式があって、自分のマンションでどのタイプの方式を採用すればいいのか分からない?という管理組合もいるでしょう。
ここからは、マンション大規模修繕工事の3タイプの発注方式について、それぞれの特徴および採用するメリット・デメリットをご紹介いたします。
このページの目次
1.マンション大規模修繕工事の3タイプの発注方式とは?
マンションで行う大規模修繕は、建物の経年による劣化や損傷などを修繕・改修する工事です。
具体的には、外壁のタイル補修や塗装工事、屋上・開放廊下・階段・バルコニーの防水工事、鉄部のサビ部分塗装工事、必要に応じて電気・給排水設備の修繕及び改修工事になります。
大規模修繕工事は、マンションの資産価値の維持・向上を図るとともに、現在の住居水準に合わせてマンション性能をグレードアップし、より住みやすいマンションにしていくことが大きな目的になっています。
大抵の分譲マンションでは管理組合によって長期修繕計画が立てられ、おおよそ12年周期で大規模修繕工事が行われています。そして、大規模修繕工事の時期が近くなると修繕委員会が立ち上げ計画を進めていきます。
そこで、大規模修繕工事の体制が整ったらどのように工事を発注するのか、「発注方式」を決めなければなりません。
そのマンション大規模修繕工事では、大きく以下の3つのタイプの発注方式からニーズに合わせて採用できます。
マンション大規模修繕の発注方式
- ・責任施工方式
- ・設計監理方式
- ・マネジメント方式(CM方式・RM方式)
日本のマンション大規模修繕工事においては「責任施工方式」と「設計監理方式」の2つの方式が採用されていました。 それが近年、アメリカで採用されているCM(コンストラクション・マネジメント)方式やRM(リノベーション・マネジメント)方式というマネジメント方式を採用するマンションが広まりつつあります。
それでは、それぞれどんな発注方式なのか見ていきましょう。
1-1.「責任施工方式」とは?施工業者に工事全般を一任する方式
責任施工方式とは名前のイメージ通り、特定の施工業者に建物診断から設計図書及び仕様書の作成、施工監理まで大規模修繕に関して、始まりから終わりまですべて施工業者に委託する方式です。
言い換えれば、選定した施工業者の方針で大規模修繕工事の施工が行われるので、信頼できる施工業者の選定が重要になります。施工業者を選定する方法として、「見積もり合わせ」、「入札」、「特命随時契約」という3つの方法はありますが、一般的なマンション大規模修繕では「見積もり合わせ」が採用されており最も確実な方法です。
1-2.「設計監理方式」とは?施工業者とは別にコンサルタント会社を選定する方式
設計監理方式は、施工業者を選定して契約するとともに、別に建築士事務所や設計コンサルタント会社を選定して契約する方式になります。
詳しくは、施工業者は施工を専門的に行い、別に契約したコンサルタント会社が建物診断や設計図書・仕様書の作成、積算や見積もりをもとに施工業者の選定を補助してくれるとともに、工事期間中の品質面などの工事監理まで行ってくれます。ただし、責任施工方式とは違い、コンサルタント会社にコンサルタント料の支払いが必要になります。
1-3.「コンサル方式(CM方式・RM方式)」とは?専門マネージャーが業務を行う方式
CMは「Construction Management|コンストラクション・マネジメント」の略語になり、CM方式とは発注者であるマンション側の補助者・代行者としてマネージャーが各種マネジメント業務の全部または一部を行う方式です。
プロのCMr(コンストラクション・マネージャー)が、技術的な管理をするとともに、発注者の立場に側に立って、設計から発注、施工の各段階で設計の検討や工事発注方式の検討、工程管理、品質管理、法令遵守などの支援を行ってくれます。
RMは「Renovation Management|リノベーション・マネジメント」の略語になり、RM方式は日本で「価格開示方式」または「オープンブック方式」と呼ばれています。
詳しくは、施工業者に対して工事に関する全ての費用、工事の進捗状況などをマンション側に開示することをRMr(リノベーション・マネージャー)が求めてマンション側を支援する方式。建物診断から長期修繕計画の見直しまでサポートが受けられます。
ここまで大規模修繕の3つの発注方式をご紹介しました。
一般的なマンション大規模修繕工事では、責任施工方式または設計監理方式が採用されていますが、アメリカで採用されているCM方式やRM方式も注目され、取り入れるマンションが増えているといいます。
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2.大規模修繕工事における3つの発注方式のメリット・デメリット
前項ではマンション大規模修繕の「責任施工方式」、「設計監理方式」、「マネジメント方式(CM方式・RM方式)」という3つの発注方式の特徴をご紹介しましたが、この項では各発注方式を採用するとこによるメリット及びデメリットをご紹介いたします。
2-1.大規模修繕「責任施工方式」のメリット・デメリット
責任施工方式は、大規模修繕工事に関する業務をすべて施工業者に一任する方式です。
このような特徴から見えてくるメリット及びデメリットを見ていきましょう。
2-1-1.「責任施工方式」のメリット
責任施工方式の一番のメリットは、建物診断から設計・仕様書の作成、工事施工から引き渡しまで全て施工業者に委託するので、マンション側の労力的な負担が大幅に軽減されることです。
それに伴って、大規模修繕の初期段階から施工業者が関わるので、計画的に施工を進めることができ、工期短縮にも繋がります。さらに、万一トラブルが発生したときも、責任の所在が明確になるのもメリットの一つです。
また、以下で紹介する設計監理方式やマネジメント(CM、RM)方式では、コンサルタント・マネジメント費用が発生します。それが責任施工方式では、施工業者に業務を委託するのでそのような費用が発生しません。
2-1-2.「責任施工方式」のデメリット
責任施工方式で一番のデメリットは、設計から施工まで施工業者が全て行うため、工事内容と費用内訳が不明瞭になりやすく、工事費が割高になるケースがあることです。
また、技術的な面では、施工業者が施工及び管理をすべて行うため、第三者によるチェックが入らず、手抜き工事・欠陥工事のリスクが高まる可能性があります。素人では手抜き・欠陥工事を見抜くのは困難なので、別に施工中及び完成時の検査をコンサルタントに依頼するなどの費用が必要になることもあります。
2-1-3.責任施工方式では信頼できて安心して任せられる業者選定が重要!
どの発注方式にもいえますが、特に責任施工方式を採用するマンションでは、施工業者の選定が重要になります。
定期的な修繕を行っていて安心して任せられる施工業者であれば、特命でも問題ないと思いますが、一から施工業者を選定するときは「見積もり合わせ」で施工業者を絞り込み、経営状態や施工実績などをよく調べてから施工業者を選定することが大切です。
その施工業者選定までの一般的な流れは以下のようになります。
マンション大規模修繕工事に伴う施工業者選定の流れ
- ①一般公募を行い広く施工業者を募集する
- ②見積もり参加業者の決定
- ③現地説明会および見積もり依頼
- ④見積もり提出業者の見積もり内容の比較
- ⑤ヒアリングおよびプレゼンテーションの実施
- ⑥施工業者へ内定通知書の送付
基本として、このような流れで施工業者の選定を行いますが、「マンション大規模修繕の施工業者の探し方と選ぶときのポイント」こちらで詳しく説明しているので、施工業者選定でお困りのマンション関係者の方は是非ご覧ください。
2-2.大規模修繕「設計監理方式」のメリット・デメリット
設計監理方式は、施工業者とは別に設計管理を行うコンサルタント会社を選定して契約する方式です。 この方式でのメリット及びデメリットは以下のようになります。
2-2-1.「設計監理方式」のメリット
設計監理方式のメリットは、施工と設計管理が分離するので、大規模修繕工事全体の施工品質が保たれることです。 施工以外の建物診断から設計・仕様書の作成、業者選定、施工管理面までプロのコンサルタントが代理で行ってくれるので、マンション側の負担が軽減できるとともに、素人では見落としがちなポイントもしっかりサポートしてくれます。
施工中から完成までコンサルタント会社が第三者の目線で施工品質をチェックするので、手抜きや欠陥が発生するリスクが大幅に軽減。さらに、施工業者を選定する際も、工事内容と工事費内訳のチェックから選定までサポートしてくれるので、結果として工事費を抑えられる可能性があります。
素人では分からないポイントもアドバイスがもらえるので、工事費用を抑えつつ工事の品質を保つことができます。
2-2-2.「設計監理方式」のデメリット
設計監理方式は施工品質を一定に保てるメリットがある一方で、工事費とは別にコンサルタント費用が発生するのが一番のデメリットです。
中規模~大規模マンションよりも、小規模マンションの費用負担の割合は高くなります。
また、完成後に不具合が発生したとき、責任の所在が不明確になることもあるので注意が必要です。
設計監理方式は、工事費とは別にコンサルタント費用は発生しますが、第三者の立場で施工品質をチェックするので、施工不良や欠陥が発生するリスクを減らすことができます。もちろん、信頼できるコンサルタント会社を選定することが重要です。
2-2-3.設計監理方式ではコンサルタント会社への丸投げは禁物!
マンション大規模修繕では設計監理方式が広く採用されていますが、コンサルタント会社にすべて一任する、いわゆる丸投げしてしまうのは禁物です。
近年「マンション大規模修繕工事の闇」としてメディアで取り上げられているのが、コンサルタントの「談合」です。
談合は、コンサルタント会社が施工業者と癒着して工事費を意図的に吊り上げ、コンサルタント会社がバックマージンを不正に得る行為で、そのバックマージンの比率は20%と、その水準が高くなっていると言われています。例えば5千万円で工事を発注した場合、コンサルタントは1千万円のバックマージンを得ていることになるのです。
もちろん、すべてのコンサルタント会社がこのような不正行為を行っている訳ではありませんが、できるだけマンション管理組合、および理事会が中心になって施工業者の選定を行い、コンサルタント会社はあくまでサポートという立場で関係性を保つ必要があります。
2-3.大規模修繕「マネジメント方式(CM方式・RM方式)」のメリット・デメリット
最後に、日本で取り入れるマンションが増えている「CM方式」「RM方式」のメリット・デメリットをご紹介します。 基本的にどちらも専門のマネージャーが発注者であるマンション側の立場になって業務を行ってくれる方式です。
2-3-1.「マネジメント方式(CM方式・RM方式)」のメリット
CM方式は、CMR(コンストラクション・マネージャー)が発注者の立場に側に立って、大規模修繕に関わる業務をマネジメントしてくれる方式です。そのため、発注者はCMRによる技術的な助言・指導が受けられ、工事品質を確保することができるとともに、施工業者も施工管理がスムーズに行えるようになります。
RM方式は、RMr(リノベーション・マネージャー)がお金の流れや施工体制を明確する方式です。
そのメリットは、大規模修繕全体の「見える化」が実現できることにより、工事費用や発注プロセスの透明化が図れることによる費用削減とともに、品質の確保にも繋がることです。
2-3-2.「マネジメント方式(CM方式・RM方式)」のデメリット
CM方式のデメリットは、マンション側と施工業者の間にCMrが介在するので、打合せやその他の協議に手間がかかることです。
発注者であるマンション側の判断や意思決定までに時間がかかるので施工が遅れるケースがあります。
RM方式のデメリットは、全体の工事費の見通しが立てづらく、承認事項が多くなるためマンション側と施工業者の負担が多くなることです。工事費用や施工体制をその都度開示して承認する必要があるので、結果として全体の工事費が不明瞭で工期が長くなる可能性があります。
どちらの方式も専門マネージャーが介在する分、協議や意思決定までに時間を要するというのが大きなデメリットになります。
CM方式・RM方式ともに日本ではまだ馴染みがない発注方式なので、よく検討してから採用するようにしましょう。
以上、大規模修繕の3つの発注方式のメリット及びデメリットをご紹介しました。
日本においては、費用を抑えつつ一定の品質が保てる「設計監理方式」を採用しているマンションが多いですが、それぞれ特徴が全く違うので、修繕委員会を中心にしっかり検討したうえで採用することが大切です。
3.マンション大規模修繕で注目されている3つの発注方式
ここまでマンション大規模修繕の、一般的に採用されている3つの発注方式をご紹介しましたが、その他に以下の3つの発注方式を採用するマンションが増えています。
マンション大規模修繕で注目の発注方式
- ・プロポーザル方式
- ・コストオン方式
- ・監修方式
基本的なポイントは前項でご紹介した発注方式と同じですが、初めて聞いたという方もいると思いますので、ここからは近年注目されている3つの発注方式の特徴、および採用するメリット・デメリットをご紹介します。
3-1.「プロポーザル方式」とは?複数の施工業者の中から最も適した業者を選ぶ方式
プロポーザル方式は、施工業者の選定にあたって、複数の施工業者から工事内容などの計画を提案してもらい、その中から当該マンションにもっとも適した施工業者を選定する方式です。
具体的には、予め用意された仕様に基づいて提案してもらうのではなく、それぞれの施工業者がマンションの状態を確認して、独自の発想と技術力で工事内容を提案してもらい、その中からもっともマンションの要望に適した施工業者を選ぶという方式になります。
3-1-1.プロポーザル方式のメリット・デメリット
プロポーザル方式の一番のメリットは、従来の見積もり合わせによる価格競争に加えて、それぞれの施工業者が独自の発想で工事内容などの提案を行うので、価格だけでなく技術面の比較もできることです。
今までの予め用意した仕様での見積もり提案では、技術的な面の比較は難しいですが、プロポーザル方式では、マンションに適した施工業者の選定が行えるようになるので、工事品質の向上に繋がり、結果として高い質の修繕工事が行えるようになるのです。
ただしデメリットとして1点だけ、提案書などの準備に手間がかかるため、最終的な施工業者選定まで、従来の発注方式よりも時間を要してしまいます。
3-2.「コストオン方式」とは?管理会社と請負契約を結ぶ方式
コストオン方式は、マンション管理組合が施工業者の選定を行ったうえで、施工業者の工事費用に設計・監理費を上乗せ(コストオン)して、管理会社と請負契約を結びます。そこで選定された施工業者は、管理会社と下請工事契約を結ぶという方式になります。
コストオン方式は、マンションと施工業者の間で直接契約を結ばず、管理会社との契約のみになるので、マンション側の経済的リスクが軽減できます。
3-2-1.コストオン方式のメリット・デメリット
コストオン方式のメリットは、マンション側と施工業者との間で工事費用を決めるため、管理会社の談合を防ぐことができることです。 コンサルタントの談合と同じように、管理会社に工事を一任してしまうと談合などの不正行為が懸念されますが、マンションと施工業者の間で工事費を決定するので、工事費の透明性が高くなります。
コストオン方式のデメリット面はほとんどありませんが、工事費用に設計監理費を上乗せ(コストオン)して管理会社と契約を結ぶので、当然その分の費用は計画に含めておく必要があります。
3-3.「監修方式」とは?コントルタント会社が監修する方式
監修方式は、責任施工方式と同じように施工業者が工事全般を行いますが、コンサルタント会社や建築士事務所などの第三者に、アドバイザーとして施工状況や品質の監修を依頼する方式になります。
監修方式では、コンサルタントはあくまでアドバイザーとして施工の監修(チェック)を行う立場になるので、設計および監理は行いません。
3-3-1.監修方式のメリット・デメリット
監修方式のメリットは、設計監理方式のようにコンサルタントに設計監理を依頼するのと違い、アドバイザーとして技術的な面のサポートを依頼するため、比較的安価で施工品質のチェックができるようになることです。
責任施工方式では、工事品質の面ですべて施工業者に依存する形になりますが、第三者のコンサルタントが施工品質をチェックしてくれるので、手抜き工事や瑕疵工事を減らせることができます。
以上、マンション大規模修繕で注目の発注方式を3つご紹介しましたが、中でも「プロポーザル方式」は、大規模修繕だけでなく多くの工事で採用され、最も適した施工業者を選ぶことで、より質の高い修繕工事ができるようになります。
ここまで、合わせて6タイプの発注方式の特徴やメリット・デメリットを説明してきましたが、マンション内でしっかり協議して、最適な発注方式を採用するようにしましょう。
4.まとめ
今回はマンション大規模修繕に伴う3つの発注方式をご紹介しましたが、違いは分かったでしょうか?
責任施工方式は施工業者に全体を一任する方式で、設計監理方式は施工と設計監理を分離して契約する方式です。 また、CM方式・RM方式は、専門マネージャーが全体をマネジメントしてくれる方式です。
日本においては施工と設計監理を分離する「設計監理方式」を採用するマンションは多いですが、先程も説明した通り、それぞれ特徴が全く違うので、マンションの実情に合わせて検討したうえで発注方式を決めるのが大切です。