マンション外壁塗装改修に伴う「下地補修」の重要性と工法解説
マンションで実施する大規模修繕では外壁も劣化に伴い塗装の改修工事が行われます。
その外壁塗装の前に行うのが、躯体コンクリートやモルタルの「下地補修」です。
下地補修は塗装工事などの施工する前に外壁コンクリートやモルタル面の補修を行う工事を指し、塗装などの仕上がりを左右する重要な工程になります。
とはいっても、基本的に足場上で施工するので実際どんな工事が行われるのか知らない方が多いと思います。
そこでこの記事では、マンション大規模修繕の外壁塗装改修に伴う「下地補修」について様々な角度でご紹介していきます。
このページの目次
1.マンションの外壁下地面に発生する劣化の種類と発生する原因
マンションなどの建物は、経年劣化は避けられません。
そこで一般的なマンションで「12年~15年周期」に実施されるのが大規模修繕工事です。
居住者の生活環境の向上や資産価値の維持・向上を図る目的で行われる工事ですが、マンションの顔ともいえる「外壁」の改修も重要な工事の一つになります。
建物の外壁は気温の変化や雨風、太陽の紫外線などの影響を常に受けているため特に劣化が進行しやすいエリアだといえます。
1-1.外壁下地の劣化の種類と発生する原因
築年数が長いマンションでは外壁タイルや塗装の浮き・剥がれとともに、躯体コンクリートや下地調整材のモルタルにも様々な劣化症状が表れてくるのです。
この項では外壁の躯体コンクリートやモルタルに発生する劣化の種類と発生する原因をご紹介します。
1-1-1.クラック(ひび割れ)
外壁などに発生する「ひび割れ」のことを建築業界では「クラック」と呼んでいます。
0.2mm未満のクラックは「ヘアークラック」と呼ばれ、それ以上のクラックは「構造クラック」と呼ばれています。
クラックの発生する原因はマンション周辺の立地環境によって異なりますが、主に乾燥や車や電車の振動、地震などの影響が考えられます。クラックを放置していると雨水が浸水して躯体コンクリートの腐食や鉄筋の錆などが発生して建物の耐久性が低下する危険があります。
1-1-2.鉄筋爆裂
鉄筋爆裂は上記のクラックなどから雨水が浸水して躯体コンクリート内の鉄筋に錆が生じ、それが膨張してコンクリートを押し出している状態です。症状が進行すると鉄筋が露出した状態になりコンクリートが剥がれ落ちる危険があります。
爆裂は雨水などが浸水してコンクリートの中性化が促進されることが一番の要因になり、内部の鉄筋に錆が生じてきます。
そして、錆が膨張するとコンクリートにクラックが生じて最終的には剥がれ落ちる可能性があるのです。
1-1-3.モルタル浮き
外壁のコンクリートと塗装やタイルの間に下地調整材としてモルタルが塗られており、そのモルタルに浮きが発生して最終的にモルタルごと剥がれ落ちる可能性があります。
モルタル浮きは交通機関や地震など外部からの振動やクラックなどからの雨水の浸水が原因と考えられ、躯体コンクリートとモルタルの接着力が低下して発生します。
1-1-4.コンクリートの欠損
コンクリートの欠損は文字通り、外壁コンクリートが欠けている状態を指します。
上記のクラックや鉄筋爆裂が原因で発生するほか、地震などの強い振動によって発生すると推測されます。
外壁では経年劣化によって主にこの4種類の劣化症状が生じてきます。
いずれの劣化も長時間放置すれば症状が進行して、最終的に躯体コンクリートがダメージを受けて建物の耐久性を低下される可能性があります。
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2.マンションの外壁塗装改修に伴う下地補修の重要性と工法解説
マンション外壁の塗装改修工事を施工する際、まずは下地面の調査を行い、前項でご紹介した劣化が発生しているときは補修が必要になります。
下地面に発生した劣化を長期間放置すればマンション自体の耐久性の低下を招く危険があるので、大規模修繕工事のタイミング以外にも発生状況によって早急に補修する必要があります。
2-1.外壁塗装改修に伴う下地補修の重要性とは?
高層マンション以外の中低層マンションの構造は「RC造(鉄筋コンクリート造)」だと思います。
RCは主要構造体が鉄筋とコンクリートを組み合わせた材料で構成され、圧縮に強いコンクリートと引張力に強い鉄筋を組み合わせることで、耐久性や耐火性、耐震性に優れた建物が建設できます。
しかし、いかに耐久性に優れているといっても経年劣化は避けられず、外壁コンクリートやモルタルにも前項でご紹介したような劣化が生じ放置すれば症状は進行していきます。
そこで、大規模修繕工事に伴って外壁の塗装改修などを施工するときは「下地補修」が重要になるのです。
外壁コンクリートに発生したクラックや鉄筋爆裂、欠損などの補修を行うことで、建物の耐久性を維持するとともに、そのあと施工する塗装工事や防水工事、タイル貼り替えなどの仕上がりを大きく左右するなど、下地補修は大規模修繕の中でも重要な工程になります。
下地補修を適切に行わずに塗装工事などを施工してしまうと、施工後すぐに塗膜に浮きなどが発生するほか、建物を保護することができなくなってしまいます。
2-2.外壁塗装改修に伴う下地補修の工法と工事の流れを解説
下地補修工事はそのあと施工する工程の仕上がりを左右する重要な工程です。ただし、下地補修工事と一言でいっても劣化の症状に合わせて補修する工法が異なります。
そこで、この項では下地補修工事で採用される主な工法と工事の流れをそれぞれ簡単にご紹介していきます。
施工単価に関しては以下の工法いずれもあくまで目安の価格なので、施工会社の見積もりはしっかりチェックしましょう。
2-2-1. 0.2mm未満のクラック 「微弾性樹脂刷り込み工法(ひび割れ被覆工法)」
0.2mm未満のヘアークラックはすぐに建物へ悪影響を与える危険はありませんが、放置すれば症状が進行してしまいます。
そこで、ヘアークラックの補修では「微弾性樹脂刷り込み工法」や「ひび割れ被覆工法」といって工法が使われます。
微弾性樹脂刷り込み工法は、微弾性防水材やフィラーと呼ばれる下塗り材を刷り込んだのち表面を平滑すれば完了です。
ひび割れ被覆工法は、塗膜弾性防水材やポリマーセメントモルタルなどでひび割れ部を覆うことで、躯体コンクリートへの雨水や炭酸ガスの侵入を防ぐ工法です。
いずれの工法も手順は同じで、最初にクラック部の清掃を行ったのち防水材などの塗り、表面を平滑にすれば施工は完了です。
施工単価は、500円~1500円/m程度が目安になります。
2-2-2. 0.2mm以上~1.0mm未満のクラック 「エポキシ樹脂低圧注入工法」など
クラック幅が0.2mm以上~1.0mm未満のときは、一般的に「エポキシ樹脂低圧注入工法」が採用されます。
また、最近ではエポキシ樹脂低圧注入工法の他に「デカデックス・リーマット工法」という工法も使われるようになっています。
【エポキシ樹脂低圧注入工法】
圧縮空気やゴム、バネの復元力などを利用して加圧できる専用器具を用いて、コンクリート面に発生したひび割れの内部に補修材料(エポキシ樹脂やセメント系注入材など)を低圧で注入する工法です。
低圧注入工は0.4N/mm2以上の加圧で、かつ専用器具の中にエポキシ樹脂などの補修材が残っている状態で硬化させることが原則になっています。そのエポキシ樹脂低圧注入工法は以下の流れで行われます。
エポキシ樹脂低圧注入工法の工事の流れ
➀ケレンおよび清掃
➁下地シーリング処理
➂専用器具(シリンダー)を設置するための座金取付け
➃専用器具(シリンダー)の取付け
➄エポキシ樹脂などシリンダーに充填しゴムなどでゆっくり注入(低圧注入)
➅補修材の注入が完了したら台座とシーリングを撤去して完了
施工単価に関しては、3,000円~4,000円/m程度が目安です。
【ホームメイキャップ工法】
ホームメイキャップ工法は、グラスファイバーマットと呼ばれるガラス繊維をクラック(ひび割れ部)に貼ったのち、MBS デカデックス(高弾性 追従性コーティング材)でコーティングする工法になります。
クラック処理を広い範囲に行う必要があるときに使用される工法です。
その作業手順は以下のようになります。
ホームメイキャップ工法の流れ
➀ケレンおよび清掃
➁MBS シーラーの塗布
➂MBS デカデックス(高弾性 追従性コーティング材)の塗り込み
➃グラスファイバーマット貼り
➄MBS デカデックスの押さえ塗り
➅乾燥したら再度MBS デカデックスを塗って完了
2-2-3. 1.0mm以上のクラック 「Uカットシール充填工法」など
1.0mm以上の構造クラックでは一般的に「Uカットシール充填工法」が採用されていますが、状況によっては「ダイレクトシール工法」が採用されるケースがあります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
【Uカットシール充填工法】
外壁コンクリートなどに生じた1.0mm以上のクラックに対して、10mm~15mm程度の深さにダイヤモンドカッターなどでU字に掘削してシーリング材を充填する工法です。クラックに沿ってU字に掘削することで躯体コンクリートとシーリング材の接着面積が広くなり、同じ個所でのひび割れを防ぐ効果があります。
Uカットシール充填工法の工事の流れ
➀施工箇所のマーキング
➁ダイヤモンドカッターを用いて10mm~15mm程度の深さにUの字型に掘削
➂プライマー(シーリング材の剥離防止)の塗布
➃シーリンク材の充填
➄モルタル処理のあと平滑にすれば完了
施工単価に関しては、2,000円~3,000円程度が目安になります。
【ダイレクトシール工法】
ダイレクトシール工法は文字通り、外壁コンクリートのクラックなどに対して、専用機器を用いて弾性エポキシ樹脂をダイレクトに注入する工法です。
上記のUカットシール充填工法と違い、Uカットなどの処理が不要になるため躯体に傷をつけずにひび割れの内部まで補修材が注入できます。コンプレッサーからの圧力を利用して専用機器で補修材を注入するので、騒音や建物を傷つけたくないというときに利用される工法になります。
ダイレクトシール工法の工事の流れ
➀ケレンおよび清掃
➁クラック部にダイレクトシールの充填
➂はみ出したシール材を綺麗に拭き取れば完了
施工単価は関しては、1,500円~2,000円/m程度が目安です。
2-2-4.モルタル浮き 「アンカーピンニング工法」
外壁モルタルの浮きに対しては「アンカーピンニング工法」が採用されます。
浮きが発生している箇所に穿孔を行ってから内部にエポキシ樹脂などを注入します。そして、穿孔の穴にアンカーピンを挿入して浮き部分を固定する工法になります。
外壁のモルタル浮きでは、ただエポキシ樹脂を注入するだけではなくアンカーピンで固定する方が固定する力が高いと言われています。
アンカーピンニング工法の工事の流れ
➀浮き部分を確認してマーキングを行う
➁コンクリートドリルを用いて一般的に直径6mm、深さはコンクリート躯体に達してから30mm程度穿孔する
➂穿孔したあとのコンクリート片を除去するとともに孔内もブラシや圧縮空気などで清掃する
➃注入ポンプを用いてエポキシ樹脂を注入する
➄ステンレス製のアンカーピンを孔内に挿入する
➅アンカーピン挿入後ははみ出したエポキシ樹脂を拭き取りパテなどで穴埋めをすれば完了
施工単価は関しては、部分補修と全面補修に分かれます。
・部分補修…アンカーピンとエポキシ樹脂で躯体コンクリートに部分固定・標準使用量30g/穴:700円~800円/穴
・全面補修…標準使用量アンカーピン部分13穴/m2・30g/穴:16,000円~17,000円/m2
2-2-5.鉄筋爆裂・欠損部 「モルタル充填工法」
鉄筋爆裂やクラックなどで欠損した部分には「樹脂系モルタル充填工法」が採用されます。
一般的に鉄筋が露出している箇所や漏水している箇所には「エポキシ樹脂モルタル」が使われ、浅い欠損部分には「ポリマーセメントモルタル」を充填します。
コンクリートの爆裂や欠損部を放置すると、そこから雨水が浸水して内部の鉄筋の腐食が進んでしまうので早急に補修が必要になります。ここでは鉄筋爆裂の補修工事の流れをご紹介します。
鉄筋爆裂部に対するモルタル充填工法の工事の流れ
➀鉄筋爆裂箇所の確認とマーキング
➁コンクリートを削って錆が発生している鉄筋を露出させる
➂鉄筋を露出させたらケレン・清掃を行う
➃鉄筋に対して防錆処理を行ったあと、モルタルの密着性をよくするためにプライマーを塗布する
➄エポキシ樹脂モルタルもしくはポリマーセメントモルタルの充填
➅硬化したあと施工部分を調整すれば完了
施工単価は鉄筋爆裂・欠損の大きさで異なりますが、1,200円~3,000円/箇所が目安になります。
以上、外壁コンクリートの劣化に合わせた5つの補修工法のご紹介でした。
このような下地補修を行うことで建物の耐久性を維持できると同時に、あとの塗装工事や防水工事、タイル貼り替えなどの仕上がりも良くなるのです。劣化状況で採用する工法に違いはありますが、下地補修が一連の工事の流れの中でも重要な工事の一つになります。
3.まとめ
マンション大規模修繕では様々なエリアの修繕を行いますが、外壁のコンクリートやモルタルの下地補修も重要な工程の一つになります。
下地補修は塗装や防水などの仕上げ工事を施工する前に行われ、建物の耐久性の維持や仕上がりを左右する重要な工程です。外壁の下地面では主に4種類の劣化が発生し、その劣化に対して様々な工法で補修工事を行います。
いずれの工事も基本的に足場上で行われるので、マンションの居住者の方は実際に見る機会はないと思いますが、どのような工事が行われているかだけでも知っていただければ幸いです。