大規模修繕で塗装を行う目的とは?塗料の種類と注意点を解説
大規模修繕工事では、外壁などの塗装工事を行います。
塗装には、時間の経過とともに汚れが目立ってきた外壁や床などを新たに塗り直し、美観を向上させる目的の他に、コンクリートの中性化防止や鉄筋の腐食防止という軀体の保護を行う重要な目的があります。
今回は、大規模修繕工事における塗装の種類と塗装工事までの流れについてご紹介します。
1.マンション大規模修繕の「塗装工事」とは?
マンションに限らずあらゆる建物は、月日の経過に伴う経年劣化が避けられないので、定期的な修繕工事が必要になります。 そこで多くのマンションが、一般的に12年周期で実施しているのが「大規模修繕工事」です。
マンション大規模修繕は、主に共用部分の劣化や損傷不具合の修繕工事を行いますが、その中の一つが今回ご紹介する「塗装工事」です。
1-1.大規模修繕で塗装工事を行う目的
一般的に塗装の塗膜は、以下のサイクルで劣化が進行していきます。
塗装の劣化サイクル
- ・塗膜に艶がなくなる
- ・変色や色褪せ
- ・チョーキング現状(チョークの粉のようなものが付着した状態)
- ・ひび割れ
- ・塗膜の剥がれ
上記の、変色や色褪せの段階で塗装の塗替えを実施するのがベストですが、塗装の塗替工事を行う主な目的として、以下の2つのポイントが挙げられます。
塗装工事を行う2つの目的
- ・建物の保護(コンクリートの中性化および鉄筋の腐食防止)
- ・マンション景観の向上
劣化が進行して、最終的に塗膜に剥がれが発生している場合、その部分から雨水などが侵入しコンクリートの中性化を招くほか、内部の鉄筋が腐食してしまい建物の耐久性に影響するだけでなく、マンションの景観も悪くなってしまいます。
そこで、塗装工事を行うことで自然環境から建物を保護できるようになるほか、塗装の剥がれや色褪せを補修することで景観も回復し、結果としてマンションの資産価値の維持・向上に繋がっていくのです。
1-2.塗装工事を行う箇所
マンション大規模修繕で塗装工事を行うとき、主に建物と鉄部の塗替えが行われます。
建物(屋上/共用廊下・階段/ベランダ・バルコニーなど)
- ・壁面
- ・天井面
鉄部
- ・外部鉄骨階段
- ・玄関ドア
- ・メーターボックス
- ・共用廊下などの手摺
- ・消火栓ボックス
大規模修繕では、建物の外部(壁面、天井面)に塗装を施している箇所のほか、鉄部に発生した錆(さび)や剥がれが発生している箇所の塗装取替工事を行います。ただし、玄関ドアなどの鉄部の塗装に関しては、一般的に5~6年で錆などが発生するといわれているので、劣化の進行が速い箇所は、その都度の塗装の塗替えが必要になります。
2.大規模修繕工事の塗装の種類
現在は、技術開発の向上によりさまざまな性能、種類の塗料があります。
以前は、塗装工事と言えば匂いが発生するイメージがありましたが、弱溶剤系塗料や水性塗料などの匂いを抑えた塗料も開発されています。
今回は、代表的な塗装の種類とその特徴や耐用年数、価格の違いについてご紹介します。
それぞれの塗料の特徴を抑えておくと、塗装工事の打ち合わせの際にも役立つのではないでしょうか。
一般的に塗料の耐用年数と価格は比例し、価格が高いものほど耐用年数も高くなります。
以下でご紹介するアクリル塗装、ウレタン塗装、シリコン塗装、フッ素塗装の順に価格は高くなり、耐用年数も高くなるとお考え下さい。
2-1.アクリル塗装 耐用年数:5年~7年
アクリル塗装は、30年ほど前に主流だった塗装です。
塗料の中では最も安価でありながら発色がよいこと、付着力が強く重ね塗りがしやすいことなどから好んで使われてきました。
しかしながら、耐用年数が5年から7年ほどと短いため、現在は使われる機会は減っています。
アクリル塗装の塗装単価は、下塗り・中塗り・上塗りの3回塗りの合計で「1,400円~1,600円/1㎥」が目安になります。
2-2.ウレタン塗装 耐用年数:8年~10年
ウレタン塗装も、アクリル塗装と同様に以前は主流の塗装方法でした。
価格はアクリルに次いで安価な塗料で、光沢感があり、ヒビが発生しにくいという特徴があります。
一方、耐用年数は8年から10年ほどで、紫外線に弱く汚れが付着しやすいなど、環境による劣化が進みやすい塗料でもあります。
ウレタン塗装の塗装単価は、下塗り・中塗り・上塗りの3回塗りの合計で「1,600円~2,400円/1㎥」が目安になります。
2-3.シリコン塗装 耐用年数:10年~15年
現在、最も多く使われている塗装がシリコン系塗料を使ったものです。
大規模修繕工事においても、塗り替えのサイクルが合うこともあり、シリコン塗装が行われることがほとんどです。
汚れをはじく性能に加えて紫外線に強いという特徴があります。
価格はウレタン塗装よりも少々高額になりますが、耐用年数が10年から15年と長くなり、塗り替えサイクルを考えるとコストパフォーマンスに優れた塗装だと言えます。
シリコン塗装の塗装単価は、下塗り・中塗り・上塗りの3回塗りの合計で「2,200円~3,000円/1㎥」が目安になります。
2-4.フッ素塗装 耐用年数15年~20年
価格は最も高価ですが、汚れがつきにくい、紫外線に強い、カビや藻も発生しにくいといった特徴があり、耐用年数も15年から20年と非常に高くなっています。
しかし、大規模修繕工事のサイクルは10年から15年に計画されている場合がほとんどです。
フッ素塗装は大規模修繕工事のサイクルよりも耐用年数が長いため、他の修繕工事とのタイミングが合いません。
塗装工事のためだけに足場をかけることは逆に費用がかかってしまうため、耐用年数は高いものの大規模修繕工事にフッ素塗装が選ばれるケースはあまりありません。
フッ素塗装の塗装単価は、3回塗りの合計で最も高い単価になり「3,600円~4,600円/1㎥」が目安になります。
以上のように、塗料にも様々な種類があるので、塗装単価が安いのに越したことはありませんが、耐用年数や塗料の機能性も考慮したうえでコンサルタントの助言を仰ぎながら、マンションに合った塗料を選ぶようにしましょう。
大規模修繕支援センターって何をやってるところ?
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大規模修繕支援センターで大規模修繕のことに関してお気軽に相談することが可能
3.一般的な塗装工事の流れを解説
大規模修繕工事に限らず、塗装工事は一般的に「下塗り・中塗り・上塗り」の3回の工程で塗装を行います。
そこでこの項では、外壁と鉄部で行う一般的な塗装工事の流れをご紹介します。実際に塗装作業に立ち会うことはないですが参考にご覧ください。
3-1. 外壁塗装工事の流れ
共用廊下・階段・各お部屋のベランダ・バルコニーなどの壁面や、天井裏の塗装を行う際の流れは以下のようになります。
外壁塗装工事の流れ
- ①養生:塗料が塗装面以外に付着しないように、シートやマスキングテープなどを使って養生を施します。
- ②下塗り:接着剤の役割があるシーラーやプライマーなどを下塗りして、建物下地と塗料の密着性を高めます。
- ③中塗り:下塗り材が乾燥したら、中塗りとして塗料を塗布していきます。
- ④上塗り:中塗りした塗料が乾燥したら、上塗りで仕上げを行います。
3-2. 鉄部塗装工事の流れ
鉄骨階段・玄関ドア・手すり・メーターボックスなど、鉄部の塗装も外壁と同じように3回塗りが基本になります。
鉄部塗装工事の流れ
- ①ケレン(錆落とし):錆が付着した状態では塗料が剥がれてしまうので、サンダーなどの機器で錆を落としていきます。
- ②下塗り:鉄部の下塗りでは錆止め塗料を塗布しますが、接着剤の役割も果たすので塗装の耐久性も高くなります。
- ③中塗り:錆止め塗料が乾燥したら、中塗りとして塗料を塗布していきます。
- ④上塗り:中塗りした塗料が乾燥したら、上塗りで仕上げを行います。
以上、外壁と鉄部の塗装工事の流れをご紹介しましたが、3回塗りが基本になるので、塗料が乾燥するまでは触れないように注意しておきましょう。
4. 大規模修繕で塗装工事を実施する際の注意点
マンション大規模修繕の実施にあたって塗装工事は必ず行われますが、塗装工事ならではの注意点があります。 特に各お部屋のベランダ・バルコニーが工事範囲に含まれているマンションでは、施工業者が工事の実施日の調整を行ったうえで、事前に注意点事項などの周知があるはずです。
4-1. 塗装工事の実施にあたっては「臭い」が発生する
塗装工事の施工にあたって一番注意したいのが「臭い」の発生です。
ベランダ・バルコニー工事の期間中だけでなく、外壁や鉄部の塗装工事でも、下塗り材や塗料からシンナー臭が発生します。
窓を閉め切っていればある程度防ぐことができますが、窓を閉めていても臭いが部屋に入ってくることがあります。人体に影響するのか?と気になりますが、外部の解放された場所で塗装を行うので人体への影響はありません。
臭いの感じ方は人によって異なりますが、臭いに敏感な方や喘息などを患っている方は、我慢する前に外出するなどの対策を取るようにしましょう。
4-2. 塗装工事を施工したあと「汚れ」があるときの対処法
塗装工事を行う際、施工業者はシートやテープで必ず養生を行いますが、それでも塗装面と関係ない箇所に塗料が付着してしまうケースがあります。
明らかに塗料が付着して汚れていると感じられる場合、自分で落とせる範囲なら問題ありませんが、汚れが酷いときはすぐに施工業者に申し出るようにしましょう。
また、塗装工事で汚れたのか元々あった汚れなのか判断できないケースもあるので、ベランダ・バルコニーで塗装工事を実施するときは、事前に室外機や窓などの建具周辺の写真を撮影しておきます。写真に収めておけば、塗装工事での汚れなのか容易に判断できるようになります。
5.まとめ
塗装工事を行う際には、仮設工事から防水工事まで、さまざまな工程が必要になります。
大規模修繕工事は10年から15年のサイクルで計画されていることが多く、塗装工事だけを行うことはほとんどありません。
そのため、大規模修繕工事では、塗り替えのサイクルが合うシリコン塗装を採用するケースが一般的です。
しかしながら、頻繁な塗り替えが難しい高層ビルなどでは耐用年数の高いフッ素塗装が向いている場合もあります。
どの塗装方法が適しているのかは、専門家に相談のうえ、決定することをおすすめします。