エレベーターのリニューアル目安と3種類の方式を解説
エレベーターといえば建物に欠かせない設備の一つです。
マンションでも今や当たり前のようにエレベーターが設置され、日々の生活の中でごく普通に利用されています。
それらのエレベーターは、事故防止のための定期点検やメンテナンスが義務付けられ、何かと経費がかかる設備の一つでもあります。
また、エレベーターにも耐用年数があり、使い続ければ部品が摩耗するほか経年劣化は避けられず、耐用年数に沿ってリニューアルを行わなければなりません。
そのため長期修繕計画の中で、大規模修繕の時期に合わせたエレベーターのリニューアル計画も立てておく必要があります。
ここからは、マンションに設置されているエレベーターの種類やリニューアル目安、合わせて大規模修繕に伴う3種類のエレベーターのリニューアル方式について詳しくご紹介いたします。
このページの目次
1. マンションのエレベーターの種類とリニューアル目安
2. 大規模修繕に伴うエレベーターの3種類のリニューアル方式
3. まとめ
1.マンションのエレベーターの種類とリニューアル目安
マンションでは主に「乗用エレベーター」が設置され、あくまで人の輸送を目的としています。
設置されるエレベーターの台数は建物の階数によって違いはありますが、一般的に「50戸に1台」と言われています。
1-1.マンションで設置されるエレベーターの種類
マンションで設置されるエレベーターは、大きく以下の2種類のいずれかの方式が採用されています。
マンションで設置されるエレベーターの種類
・ロープ式エレベーター
・油圧式エレベーター
それぞれの特徴を簡単にご紹介します。
1-1-1.ロープ式エレベーター
ロープ式エレベーターの中でも、「トラクション式(つるべ式)」と「巻胴式(ドラム式)」に分類されます。
トラクション式は最上階に機械室がある、ないで分かれます。
機械室があるタイプは、ロープの一端を人が乗る「かご」、もう一端を「釣合おもり」に締結して、機械室に取り付けてある巻上機が効率よく駆動するエレベーターの最も基本的なタイプです。低層から高層マンションまで幅広く採用されています。
また、機械室がないタイプは、巻上機、制御盤を昇降路内の上部、下部、地下ピットなどに設置します。
メーカーによって構造に違いはありますが、機械室が不要になるため、現在のマンションで主流になっています。
巻胴式エレベーターは、「巻胴式巻上機」がワイヤーロープをドラムに巻きつけて、カゴを昇降させるシンプルな仕組みのエレベーターで、低層マンションのみで一部採用されています。
1-1-2.油圧式エレベーター
油圧式エレベーターも、「直接式」と「間接式」に分類されます。
直結式は、油圧シリンダー内のプランジャー(かごが上下する部分)にエレベーターのかごを直結して昇降を行います。
間接式は、プランジャーの動きをロープなどに経由させて間接的にエレベーターのかごの昇降を行います。
いずれの方式も油圧ユニットや制御盤を設置する機械室が必要で、適用範囲も低層の建物に限られるため、採用しているマンションはほとんどありません。
以上、エレベーターの2種類の方式をご紹介しましたが、現在のマンションはロープ式エレベーターの「トラクション式(つるべ式)」が一般的に採用されています。
1-2.エレベーターは年1回の定期点検と月1回の保守点検が必要
エレベーターは人の昇降を行う設備であるため、建築基準法では年1回の定期点検が義務付けられています。
通常、エレベーター内に「定期検査報告済証」が貼られているのを目にしますが、これは年1回の法定点検が済んでいる証になります。
1-2-1.エレベーターの保守点検およびメンテナンス
エレベーターは法定点検とは別に「保守点検」も必要。建築基準法の中で、おおむね1ヶ月ごとに専門技術者による保守点検やメンテナンスを行わせなければならないと明記されています。
そのため、エレベーターを設置しているマンションでは一般的に以下の2種類のいずれかのメンテナンス契約を結びます。
エレベーターのメンテナンス契約
POG契約(Parts Oil Grease)
FM契約(Full Maintenance)
POG契約は、日常点検や清掃、パーツの交換、油やグリース(潤滑油)の補給などをメインに行うメンテナンス契約です。 FM(フルメンテナンス)契約は、名前の通りエレベーターに関わる全てのメンテナンスを委託する契約です。
エレベーターは人を載せて稼働する設備です。 法定点検はもちろん保守点検やメンテナンスも確実に実施し、万一の事態が発生しないようにしなければなりません。
1-3.エレベーターの法定耐用年数とリニューアル目安
ここまでエレベーターの種類や定期点検についてご紹介しましたが、耐用年数は何年かご存知ですか?
法的にエレベーターは「建物付属設備」の「昇降機設備」に該当し、法定耐用年数は「17年」と定められています。
しかし、先程ご説明した法定点検や保守点検をしっかり行っていれば、20年~25年は利用できるのです。
各メーカーでも、エレベーターの寿命は適正な保守点検を行っていれば20年~25年使用できると明記されています。さらに、建築・設備維持保全推進協会のLCC(ライフサイクルコスト)評価指針での耐用年数も25年とされています。
つまり、法的にはエレベーターの耐用年数は17年と定められているものの、保守点検やメンテナンスを的確に実施していれば、20年~25年は利用できるということです。
そこで、一般的な12年周期で大規模修繕工事を計画しているマンションでは、2回目(築24年目)にエレベーターのリニューアル工事を視野に入れた計画が必要になります。
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2.大規模修繕に伴うエレベーターの3種類のリニューアル方式
マンションに設置したエレベーターは、メンテナンスを確実に実施していれば20年~25年は使用できますが、逆に考えれば20年~25年を目安にリニューアルが必要になるということです。 そのため、先程も説明した通り、2回目の大規模修繕に合わせてエレベーターのリニューアル計画を立てておく必要があります。
そのエレベーターのリニューアル工事には大きく以下の3種類の選択肢があります。
エレベーターのリニューアル方式
・全撤去型リニューアル方式
・準撤去型リニューアル方式
・制御部品型リニューアル方式
エレベーターのリニューアルは、一般的に以上3種類のいずれかの方式で工事を行いますが、当然かかる費用や手間は異なります。ここからは、3種類のリニューアル方式のメリット・デメリット、合わせておおよその工事費の目安をそれぞれご紹介いたします。
2-1.「全撤去型リニューアル方式」のメリット・デメリットと費用目安
全撤去型リニューアル方式は、既存エレベーターの部品にいたるまで全て撤去して、新しいエレベーターに入れ替える工事です。
新品エレベーターになるというメリットは大きいものの、3種類の方式の中で工期および工事費が最もかかります。
工期的に1ヶ月程度かかり、工事内容もエレベーター本体とは別に建築工事や電気設備工事も付随して行われます。 エレベーター本体よりも建築・電気設備に付随する工事の方が多くなり、建築確認申請の届出も必要になるので手続面でも手間がかかります。
全撤去型リニューアル方式の工事費は、1機当たり1,200万円~1,500万円が目安。設置しているエレベーターの台数によってはかなりの費用が必要になります。
2-2.「準撤去型リニューアル方式」のメリット・デメリットと費用目安
準撤去型リニューアル方式は、エレベーター本体の主要な部分はそのまま利用して、巻上機や制御版、ロープ、扉などを新品に取り替える工法です。
部分的な改修でエレベーター本体以外の付随工事が少ないので、工期的に15日~20日程度と比較的短くなります。しかし、タイプの古いエレベーターの場合、交換する部品がオーダーになるケースが多くなるため工事費が高くなる傾向があります。
また、建築確認申請の届出が必要なケースが多いので、手続き面は確認が必須です。
準撤去型リニューアル方式の工事費は、部品がオーダー品になれば1機当たり700万円~1,000万円程度が目安になります。
2-3.「制御部品型リニューアル方式」のメリット・デメリットと費用目安
制御部品型リニューアル方式は、エレベーターの制御関連部品(制御盤、電動機など)をメインに、部品の交換や制御方式を更新する工事です。
エレベーターの状態を考慮した上でマンション側の意向に沿って工事が行えるので、工期も1週間程度と短く工事費も安く抑えられます。一般的に建築確認申請の届出は必要ありませんが確認はしておきましよう。
制御部品型リニューアル方式の工事費は、1機当たり500万円~700万円が目安になります。
以上、3種類のリニューアル方式の特徴や費用目安をご紹介しましたが、簡単にまとめてみましょう。
全撤去型リニューアル方式 | 準撤去型リニューアル方式 | 制御部品型リニューアル方式 | |
---|---|---|---|
工期 | 長い 30日~ | 比較的短い 15日~20日 | 短い 7日~15日 |
工事費 (1機あたり) | 高い 1,200万円~1,500万円 | 普通 700万円~1,000万円 | 安い 500万円~700万円 |
手続き (確認申請の届出) | 必要 | 必要なケースが多い (要確認) | 一般的に不要 (確認が必要) |
以上、工期、工事費、手続きで簡単に比較してみました。
制御部品型リニューアル方式でも1機あたり500万円程度は必要になり、3機設置していれば単純に1,500万円の予算が必要になります。まずは工事費と予算を照らし合わせて、施工会社としっかり協議した上でベストなリニューアル方式を選ぶようにしましょう。
3.まとめ
エレベーターはマンションでも今や生活に欠かせない設備の一つです。
現在のマンションはロープ式エレベーターの「トラクション式(つるべ式)」が一般的に採用されています。
法的にエレベーターの耐用年数は17年と定められていますが、定期点検やメンテナンスを的確に実施していれば20年~25年は利用できます。
そこで、20年~25年を目安にエレベーターのリニューアル工事を実施するようになり、大きく3種類の工事方式があります。
ご紹介した通り、それぞれの工事方式でメリット・デメリット、工事費用に違いがあります。予算や工期、劣化状況などを考慮した上でベストな工事方式を選ぶようにしましょう。